手紙〜最終日の最終回

 公開最終日となった今日、ようやく観に行くことが
出来た。仕事が終わって、急いで横浜まで戻って、食事
をしてから観ようと思っていたので、とても慌しいこと
になり、新高島にある109シネマに着いた時には既に
予告編が始まっていた。暗くなった映画館の中、指定された
席に座ると、程なく本編が始まった。本当にぎりぎりで
間に合ったという感じだった。しかも、最終回の上映
だったので、結構混んでいた。


 日頃、ニュース等を媒体にして、刑事犯罪で私たちの視野
に入ってくるのは、加害者を除けば被害者とその家族のこと
ばかり。裁判で被告に対して判決が下ればそれで終わりと
、ついつい考えがちだ。しかし、それからもつらく厳しい戦い
を強いられている人間もいる。


 この話は、加害者側の家族にスポットを当てて、進学、仕事
、住まい、そして恋人をも、その取り巻く環境の厳しさから
失いながらも懸命に生きようとする青年武島直貴(山田孝之)と
服役中の兄、武島剛志(玉山鉄二)との手紙のやりとりを軸
にして展開していく。その二人のやりとりを、唯一暖かい眼差し
で見つめ続け、後に直貴の伴侶となる女性、白石由美子役の
沢尻エリカの好演も見逃せない。



 理不尽な差別に自暴自棄になり自分の居場所から逃避しそうになる
直貴を励ます由美子の「私は絶対逃げへん。」という言葉、そして
杉浦直樹演じる会長平野の「差別のない場所を探すんじゃない。君は
ここで生きていくんだ。」と、直貴を諭す言葉の中に真理と光明を
見た思いがした。



 ラストの刑務所の慰問興行での漫才のシーン。舞台の直貴を見つめ
ながら、無言のまま、泣きながら拝むように自分の罪の許しを請う
兄剛志の涙。そしてそのバックに流れる小田和正の名曲「言葉にできない」。
こらえていたけれど、最後の最後でやられてしまった(笑)。



  この映画に関するコメントの中に、お涙頂戴の映画だと一言で酷評
している方がいらっしゃったが、そういう視点でしかこの映画を観る
ことが出来ないのだとしたら、とても残念なことだ。この映画、お涙
頂戴を目的に作られた映画ではないということは誰の目にも明らかだ
と思うのだが・・。
 観終わった後で、優しさを失った現代社会の歪みや贖罪の意味に
ついて、帰りの電車の中であれこれ考えながら帰ってきた。
 いつ何時、自分や家族がそうした状況に追い込まれるか分からない
今の社会の現状について、問題提起がされている映画だと思う。