目に留まった記事

 風呂上りに夕刊に目を通していると、こんな記事を
見つけた。考えてみると、私の祖父も75歳の時に
くも膜下出血で亡くなっている。金婚式のお祝いを
した半年後のことだったと記憶している。もう直ぐ、
祖父の命日10月30日がやって来る。

しかられた夜 心安らいだ部屋

佐藤俊和撮影村治 佳織(むらじ・かおり) さん ギタリスト
1978年東京生まれ。15歳でデビュー。2003年、日本人として初めて英国名門クラシックレーベル「DECCA」と長期専属契約を結ぶ。25日にCD「ライア&ソネット」が発売される。

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 東京の下町の自宅で一緒に暮らしていた祖母は、和服の似合う小粋な人でした。

 料理が得意で、子供のころ、台所でゴマやとろろ芋を擦るのを手伝いました。父親にしかられた夜、祖母の部屋で何げない話をして過ごすと心が安らぎました。浴衣に着替えた祖母はきちんと正座していました。

 祖母が亡くなったのは私が9歳の時。部屋から出てこないので迎えに行くと、中で倒れていました。くも膜下出血で、75歳でした。

 葬儀では、ギターを教えてくれていた父と、祖母の好きな「赤い靴」を演奏しました。悲しみより、急に人がいなくなったことが怖かった。しばらく祖母の部屋に1人で行けませんでした。最近、「悲しんであげられなくてごめんね」と墓前で謝りました。今は、祖母の部屋が私の部屋です。

 子育てに手いっぱいな親と違い、少し離れて見ている祖父母の存在が子供のストレスを和らげることは多いと思います。核家族が多いなか、親子以外の人間関係が家にあったことは幸せだったんだなと思っています。(聞き手・小山孝)

(2006年10月18日 読売新聞夕刊より)